市町村長・理事長に聞く
Interview
地域農業の現状や課題、今後の展望などについてお聞きします。
第6回
初宿和夫八王子市長
初宿市長へのインタビュー

初宿市長
八王子市の農地面積は756ヘクタール、農業産出額は24億7,100万円となっています。
八王子市は広域なエリアを抱え、市街化区域の生産緑地で行われている都市農業や、市街化調整区域の農業振興地域の農業、中山間地域の農業などで様子は様々です。作目も水稲や野菜、果樹、酪農など多岐にわたり、熱心に営農されている方が多いと思います。
また、小比企(こびき)地区や高月(たかつき)地区、ひよどり山地区にはまとまった農地が広がり、東京では貴重な田園風景を見ることができます。
こうしたバラエティー豊かな農業のショーウィンドウとして、都内で唯一の道の駅「八王子滝山」があります。ここでは、旬の農産物や農産加工品をはじめ、地元食材を使った惣菜、ジェラート、菓子や酒など市内の名産品を購入できます。昨年には、文化庁の「食文化ミュージアム」に認定されました。
道の駅には旬の採れたて農産物が並ぶ
市内の名産品も勢ぞろい

内田常務理事
八王子市の農業には、市の原点となるような歴史がありますね。

初宿市長
八王子市は古くから養蚕や織物が盛んな地域で、「桑都(そうと)」と呼ばれてきました。平安時代にはすでに生糸や布の生産が記録されており、江戸時代には関東有数の織物産地として発展しています。
こうした「桑都」の歴史・文化は、今も日本遺産「桑都物語」として八王子に息づいており、これを構成する伝統芸能として八王子車人形は有名です。人形遣いがろくろ車に腰掛けて一人で人形を操る全国的にも珍しい芸能で、2022年に国の重要無形民俗文化財に指定されています。
また、10月3日には、八王子駅南口に、「歴史・郷土ミュージアム」をはじめ、「八王子中央公園」、「いこいライブラリ」、「交流スペース」が一体となった「桑都の杜」がオープンします。名称は、数多くの応募の中から絞り込み、最終的に市内の小中学生に選んでいただきました。集いと賑わいの拠点として、市の新しいシンボルになっていくと思います。多くの皆様にお越しいただければ幸いです。

内田常務理事
八王子市は都市開発が進み、多くの人口を有し、数多くの大学や企業を抱える大都市のイメージがありますが、市政の中では農業をどのように捉えられているのでしょうか。

初宿市長
都市開発では、多摩ニュータウンが、住宅地としてだけでなく商業・業務・教育機能を備えた複合的な都市空間として、みなみ野地区を中心とする八王子ニュータウンが住宅都市として整備されたのをはじめ、各地域で様々な都市機能の整備が行われてきました。
農業は、こうした長い歴史の中で変遷を遂げてきました。都市化が進んだ今日、市内の農業は直売や農業体験などを通じて市民生活を豊かにしてくれます。また、環境保全や防災、教育、レクリエーション、美しい景観など、市政の様々な分野で重要な役割を果たしています。

内田常務理事
都市の発展に伴って、農業の役割も多角的に捉えられてきているのですね。
現在、市ではどんな農業施策を講じられているのでしょうか。

初宿市長
担い手の確保・育成や農地の貸し借り、経営支援、獣害対策、地域によっては農道や農業用水などの基盤整備など多岐にわたります。
最近は、市内にツキノワグマが確認されたため、農家への被害対策として、防除指導員が農作物の適切な防除方法や餌となるものを放置しないことなどのアドバイスをしています。
また、市では学校給食に市内産農産物を積極的に活用していますが、給食の時には、子どもたちの学習用端末に、私がビデオメッセージで農産物の紹介や農家さんのご苦労などをネット配信しています。こうした取組は食育として、農業や食への理解を深め、子供たちの健全育成に役立っていると感じます。
さらに私は、農業を儲かる産業にして、営農を通じて緑豊かな農地を保全していくことが大切だと考えています。そのためには、革新的技術を経営に取り入れたスマート農業を進めていきたいと思います。
最近では、イチゴ栽培に、温度や湿度などをコンピューターで自動管理する環境制御システムを導入したり、酪農では、作業の合理化を図るための搾乳ロボットを導入した事例があります。市では、こうした農業者自身の発想による経営改革を積極的に支援していきたいと思います。
イチゴの環境制御栽培
搾乳ロボットで作業を自動化

内田常務理事
先ほど、市長がまとまった農地のある地区のお話をされましたが、こうした都市の中にある農空間についてお聞きしたいと思います。
まず、小比企地区ですが、令和元年ころに当会で設計をさせていただき、農道や潅水施設を整備した経緯があります。現在の状況はいかがでしょうか。

初宿市長
小比企地区は、その多くが市街化調整区域にある一面の畑作地帯で、皆さんがとても熱心に営農されています。この地域では今、ベテラン農業者や若手農業者が一緒になって、市民の皆さんが楽しめる農業を作ろうとしています。
酪農家が経営するレストランでは、新鮮なミルクやソフトクリームをはじめ、地元の採れたて野菜を使ったメニューを提供し、テレビでも紹介されたことから、市外からもたくさんのお客様がいらっしゃっています。また、市民が農業を体験できる機会を提供したり、マルシェを開催したり、「こびきジャーナル」という情報紙を発行したりしています。
私は、この地区の若い農業者とお話をする機会がありましたが、とてもアイディアが豊富で、他の経営者の刺激になるような優れた経営者であると感じました。
八王子市の農空間には大きな潜在力があると考えています。こうした農業者や市民の皆さんなどのフレッシュな発想を活かすことで、農業の新たな魅力を創造できるのではないかと思っています。
美しく管理された農地が広がる小比企地区
酪農家が経営するファームレストラン

内田常務理事
皆さんで東京ならではの新しい農空間をつくろうとしているのですね。
また、高月地区には都内で最も広い水田地帯がありますが、市長の水田へのお考えをお聞かせください。

初宿市長
今年度、水土里ネット東京さんには、高月町(高月・滝地区)の農業用水路の機能診断をしていただいていることにお礼を申し上げます。
この地域の水田は歴史があり、農家の方々が先祖代々米づくりをして田んぼを守ってきたところです。
収穫された米は、「高月清流米」としてブランド化されています。また、2023年に市内に東京で10番目となる地元密着型の酒蔵が誕生し、高月地区ではここにも酒米を提供しています。
秋川の高月用水堰から水を取り入れ、地域一帯を水路が走っています。この美しい田園風景は市のみならず東京の貴重な財産であり、これを未来に継承していくことはとても重要だと思います。
私も農家の方とこの地域を歩きましたが、かつて整備した水路や道路などの老朽化も見られますので、こうした農業インフラの改修、整備を行い、また、スマート農業なども取り入れ、水田の保全に努めていきたいと考えています。

内田常務理事
ひよどり山地区は都立小宮公園に隣接した広大な都有地で、市民農園や東京農業アカデミーなどの農地が広がっていますが、市では今後ここをどのようにしていきたいとお考えでしょうか。

初宿市長
ひよどり山は、北海道を思わせるような緩やかな起伏のある農空間です。市ではこれまで、市民と都民が利用できる「ひよどり山農園」や、農業の多様な担い手を育成するのための「八王子農業塾」を運営してきました。農園には家族づれや幅広い年代の皆さんが訪れ楽しまれています。農業塾については、今後さらに修了後の活躍を見据えた研修プログラムに進化させていく計画です。
また、東京都農林水産振興財団が運営する「東京農業アカデミー研修農場」は、農外からの就農希望者をプロの農家に育成するための実践研修を行っています。市では、新規就農の促進に力を入れていますが、この5年間で14名が新規就農し、うち5名がアカデミーの卒業生です。皆さん夢を持って頑張っていると聞いています。
ひよどり山地区は、とてもいい形で活用できていて素晴らしいと思います。
今後はさらに、農業者や市民、大学、企業などの多様な主体が参画し活動することで、新しい農業の可能性を開拓していけるような場所にできればと思っております。特に、農業の担い手の育成やアグリテックの開発、農業と福祉との連携、市民の新たなライフスタイルの創造など、この広大な農空間が課題解決やチャレンジのフィールドになればと思っています。
高月地区は都内最大の水田地帯
東京農業アカデミーの研修風景

内田常務理事
3地区のお話をお聞きしましたが、こうした農空間が都市の魅力をさらに高めるものになるのですね。
最後に、八王子市に大学の農学部ができるとお聞きしましたが、市はどのようにお考えでしょうか。

初宿市長
八王子市は学園都市で、いろいろな大学があるのが強みだと思います。
2028年4月には、市内の中央大学の多摩キャンパスに「情報農学部(仮称)」が新設される予定です。農業とAI・データサイエンスなどの情報科学を融合させ、農・食・環境分野における社会課題の解決を目指すと聞いております。都内屈指の農業産出額のある八王子市に新しい農学部ができることを大変うれしく、全面的にご協力させていただきたいと思っています。
農業者の減少や高齢化への対応、儲かる農業の実現などの課題を解決するには、東京の実態に合ったスマート農業技術や都市型経営の開発が不可欠です。市内には多くの農地があり多彩な農業が展開されています。地元に密着し、こうした八王子市のフィールドを大いに活用していただき、八王子市だからできたというような、日本の農業をリードする新しい農学を切り拓いていただくことを期待しています。
現在、市内には農学部を有する大学はありませんが、農業分野に関する研究に取り組む大学があり、本市の農業振興を進める上で心強い存在であると思っています。

内田常務理事
八王子市の大学に農学部ができるのは、とても夢のあることですね。
今日のお話では、市の農業が都市の中で、さらに進化しようとしているのを感じることができました。
お忙しい中、大変ありがとうございました。
※2026年9月10日に八王子市長応接室でインタビュー、聞き手は水土里ネット東京 内田常務理事

内田常務理事
今日は第6回目の「市町村長・理事長に聞く」ということで、都内で屈指の農地面積と農業産出額のある八王子市の初宿(しやけ)市長に、市の農業や農政のお考えについてお聞きしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
はじめに、市の農業の特色とはどのようなところでしょうか。