市町村長・理事長に聞く

Interview

このコーナーでは、水土里ネット東京の会員である市町村長や土地改良区理事長に、
地域農業の現状や課題、今後の展望などについてお聞きします。

第2回

中嶋博幸あきる野市長

内田常務理事

今日は第2回目の「市町村長・理事長に聞く」ということで、水土里ネット東京の中嶋副会長にあきる野市長のお立場から市の農業振興についてお聞きしたいと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。
はじめに、あきる野市の農業の特徴についてお聞きかせいただければと思います。

中嶋市長

あきる野市の農業は地域ごとに特徴があります。東部の秋留台地は一面に農地が広がる畑作地帯で、特産のトウモロコシをはじめ野菜などが栽培されています。また、秋川流域は、今も6つの農業用水が流れる水田地帯です。さらに、五日市地域では中山間農業、市街化区域では生産緑地を中心に都市農業が行われています。

農地面積は400haで、このうち農業振興地域に250haあり、都内では多い方だと思います。

市では、秋川ファーマーズセンターや五日市ファーマーズセンター、瀬音の湯物産販売所「朝露」を中心に「地産地消型農業」を進めています。

中嶋市長へのインタビュー

内田常務理事

農業振興地域には都内有数の平坦でまとまった農地がありますが、基盤整備の状況はいかがでしょうか。

中嶋市長

市内には、かつては8つの土地改良区があり、農地の造成や区画整理、農道、農業用水の整備が活発に行われてきました。その後も改良を行い、水田地帯、畑作地帯ともに営農条件の良い農地になっています。これらの基盤施設は農業に必要不可欠なインフラですので、今後も整備・保全に努めていきます。

ところで、農業用水堰には「魚道」が設置されています。東京湾から遡上する天然アユは一時期その姿を消しましたが、近年は、多摩川の水質改善や魚がのぼりやすい堰への改良など、関係者の努力により徐々に遡上が見られるようになりました。天然アユは貴重な水産資源であり、その復活は東京が環境都市であることのシンボルにもなります。

野菜畑が広がる秋留台地

小川久保用水と水田

内田常務理事

地産地消型農業を進めていらっしゃるとのことですが、ファーマーズセンターや瀬音の湯の直売所などには、遠くからもお客様が見えていますね。

中嶋市長

あきる野市の農業は観光資源にもなっています。市内には、秋川渓谷をはじめ、温泉施設の「瀬音の湯」やマス釣り場、渓流沿いのバーベキュー施設など、都民の皆様の身近なレジャースポットがたくさんあります。こうしたお客様が直売所で市の特産品を購入していただき味わっていただくことで、小さな旅をより楽しいものにできると思います。

秋川ファーマーズセンターに並ぶトウモロコシ

瀬音の湯物産販売所「朝露」

内田常務理事

東京全体を視野に入れた地産地消ですね。

今、担い手の確保や遊休農地の解消は全国共通の課題ですが、あきる野市ではいかがでしょうか。

中嶋市長

当市も、農業者の高齢化や担い手不足への対応と遊休農地の解消は重要課題です。

このため、農業委員会や農業会議と連携し、意欲的担い手や農外からの新規就農者への農地の貸し借りを進めており、現在、農地活用の将来ビジョンである地域計画の作成にも取り組んでいます。

特に、農外からの新規就農者には、スムーズに営農を開始できるよう、地元農家での実践的研修や、市独自の新規就農者提案型の事業などでバックアップしています。

内田常務理事

農外からの新規就農は、どのような状況なのでしょうか。

中嶋市長

令和5年度までに14名が就農しています。

最近の事例としては、ヤギ牧場を開業して「ヤギチーズ」を製造しチーズコンクールで受賞した方や、就農と同時に最先端の温室でイチゴの観光農園を開設した方、東京農業アカデミーの八王子研修農場を修了して農園を開設した方など、皆さん熱心に営農に取り組まれています。

こうした若い就農者の姿を広く発信し、農業に興味のある方の市への移住・定住も増やしたいと思っています。

内田常務理事

皆さんそれぞれ夢を持って、農業にチャレンジされているのですね。

市の農業振興計画では、「新たな農業を切り拓く」ことが基本方針の一つになっていますが、具体的にはどのようなことをされるのでしょうか。

中嶋市長

例えば、コンピューター制御によるトマトのハウス栽培や環境制御によるシイタケの菌床栽培など、市では最先端技術を活用した農業への取組を支援しています。

また、様々なはちみつの商品開発・販売をする養蜂家や、ブドウ栽培とワインの製造販売を行い国際的な賞を受賞した方、発酵ニンニクを商品化する方、トウモロコシの焼酎やのらぼう菜の味噌汁を作ったJAなど、加工品開発も活発です。

環境制御によるシイタケの菌床栽培

ワイン用ブドウの栽培

内田常務理事

新しい農業へのチャレンジャーがたくさんいらっしゃるのは、将来が楽しみですね。

最後に、今後の農業振興のお考えについてお聞かせください。

中嶋市長

市には、トウモロコシなどの名産品がありますが、直売などで売り切れてしまうので、ふるさと納税のお礼品にできるくらい、もっと生産量を増やしていきたいと思います。

また、農業を魅力ある産業にするためには、農業基盤や生産施設の整備を支援しながら、農業者の発想を活かした新しい農業を切り開いていくことが大切です。

商工業や観光業などとの産業間連携による相乗効果の発揮や、豊かな市民生活や環境保全への貢献など、農業を多角的に捉え、その潜在力と可能性を引き出していく取組を進めていきたいと思います。

内田常務理事

そうした事例が増えつつあるのは素晴らしいですね。

今日はお忙しい中、ありがとうございました。

※2024年10月25日にあきる野市長応接室でインタビュー、聞き手は水土里ネット東京 内田常務理事