市町村長・理事長に聞く

Interview

このコーナーでは、水土里ネット東京の会員である市町村長や土地改良区理事長に、地域農業の現状や課題、今後の展望などについてお聞きします。
第5回は特別編として、当会が設立された昭和33年当時、都内で最も活発に土地改良事業に取り組んだ足立区、葛飾区、江戸川区を所管するJA東京スマイルの眞利子組合長に「江東3区の農業の昔と今」というテーマでお話をお聞きします。

第5回 特別編

眞利子伊知郎JA東京スマイル組合長

眞利子組合長へのインタビュー

内田常務理事

当会と江東3区の関りはとても深いものがあります。この地域は昭和20年代後半から30年代に土地改良区が多数設立され、当会も江戸川事務所を開設して土地改良事業の設計や監督などを受託し、農家の皆さんと一緒になって事業に取り組ませていただきました。

当時のこの地域はどのような様子だったのでしょうか。

眞利子組合長

私の地区は江戸川区の新中川沿岸第一土地改良区になります。私は昭和34年の生まれですが、当時は祖父が事業に参画しておりました。自宅近くの神社にある記念碑には、面積は64町歩で農家319名が参画したことや祖父の名前も刻まれています。

この地域は大きな河川に囲まれた低湿地で水田が多くを占めていましたが、洪水や排水不良などで生産の不安定さに悩まされてきました。また、区画は不整形で、農道なども整備されていないため機械化も進まず、農地の区画整理や用排水路、農道の整備は農業の近代化に向けた時代の趨勢だったと思います。

昭和40年代ごろまでは、農家には「べか舟」と呼ばれる底が平らな小舟がありました。用水路を使って、収穫した稲や肥料の運搬などに使われました。また、大雨が降ると田んぼが池のようになるため、この舟が必要でした。洪水がなくなったのは下水道が整備されてきた昭和50年代以降です。

昭和30年代前半の江戸川区の水田と「べか舟」 篠崎連合土地改良区施行前

内田常務理事

江戸川区では、鹿骨土地改良区が129町歩、篠崎連合土地改良区が335町歩あったと記録があります。今では想像できない広い農地ですが、昭和30年代から40年代の農業生産はどのようなものだったのでしょうか。

眞利子組合長

この地域は江戸のころから庶民に食料を供給してきた農業地域です。

当時は水稲が多く栽培されていましたが、江戸のころからの伝統を引き継ぎ、主力作物のコマツナに加え、江戸東京野菜なども多く栽培されていました。特徴的作物として、足立区では料理に添えるツマモノや千住ネギ、コギクなど、葛飾区では金町コカブや亀戸ダイコン、江戸川区ではしめ縄づくりやアサガオ、ホウズキなど、暮らしに密着した伝統的作物が多かったと思います。かつては市場出荷がほとんどでした。

結束の美しさにこだわる特産コマツナ

足立区特産のツマモノ、左がムラメ、右がメカブ

内田常務理事

この地域が市街地として開発されたのは、いつ頃からなのでしょうか。

眞利子組合長

昭和30年代に入るとすでに都市化の波が押し寄せていましたが、大きな転換点は昭和43年に新都市計画法が施行され、45年にこの地域が市街化区域に線引きされたことだと思います。都心に近いことで、隅田・荒川・江東などの周辺区をはじめ、この地域は工場や住宅などへの開発が急速に進み、東京の発展に伴い大きく変貌した地域だと思います。

内田常務理事

昔から農業を行ってきた農家の方々にとっては、都市化の中で大変なご苦労があったのではないでしょうか

眞利子組合長

市街化区域への線引きを機に、農地への宅地並み課税、旧生産緑地制度、長期営農継続農地制度、新生産緑地制度など、農地をめぐる制度の変遷や増加する税への対応など、非常に厳しい環境に置かれてきました。

一方、生産面では、これまで年間1~2回だったコマツナの露地栽培を、昭和50年代後半ごろから年間5~6回作付ける施設栽培へと高度集約化し、収益拡大を目指しました。

内田常務理事

都市化の中でのご苦労は大きかったかと思います。

周囲の環境が変化する中で、今日のこの地域の農業の役割とは何でしょうか。

眞利子組合長

まずは、消費者ニーズに応えることです。市場出荷の多い地域ですが、最近は直売も増えてきました。コマツナやエダマメなど鮮度が求められる農産物をすぐに届けることができます。JAの直売所としては、各区にそれぞれ「あだち菜の郷」、「葛飾元気野菜直売所」、「えどちゃんショップ」があります。様々なイベントを通じても地元の農産物や加工品を提供して、区民からは人気です。

また、この地域は住宅が密集していますので、農地が防災面での役割を果たすことは重要です。このため、JAや農業者団体が各区との間で「災害協定」を締結し、災害時における一時避難場所としての農地の活用や防災兼用農業用井戸の利用、農産物の提供などを定めています。

教育面では、年1回、3区の全公立小中学校273校に給食食材としてコマツナ約1万束を無償提供しています。一束は500gです。JAと生産者、教育委員会、学校が連携し、2009年から毎年行っています。出前授業や学校農園の支援、畑の見学など、生産者の協力のもと農業を学ぶ機会も提供しています。

災害時に備える防災協力農地

葛飾区産業フェアに展示された地元野菜の宝船

イベントでJA女性部が小松菜まんじゅうを提供

内田常務理事

様々な形で地域と連携した取組をされているのですね。JAとしては、江東3区の農業を今後どのように振興していくお考えでしょうか。

眞利子組合長

今お話ししたような都市農業の持つ多面的な機能を一層発揮して地域に貢献していくほか、農業改良普及センターと連携して、農業の担い手の育成に力を入れていきます。

また、都市農業は地域の皆さんのご理解が不可欠ですので、ホームページやSNSで、その魅力や役割などを積極的に情報発信していきたいと考えています。

内田常務理事

地域に密着した農業、地域への貢献を重視しているのですね。

今日はお忙しい中、ありがとうございました。

※2025年12月8日にJA東京スマイルでインタビュー、聞き手は水土里ネット東京 内田常務理事

※本インタビューは、土地改良だより162号にも掲載しています。