市町村長・理事長に聞く

Interview

このコーナーでは、水土里ネット東京の会員である市町村長や土地改良区理事長に、
地域農業の現状や課題、今後の展望などについてお聞きします。

第4回

佐々木宏青ヶ島村長

内田常務理事

今日は第4回目の「市町村長・理事長に聞く」ということで、水土里ネット東京の理事である佐々木宏青ヶ島村長に村の農業の状況や今後の方向などについてお聞きしたいと思います。

どうぞよろしくお願いいたします。

はじめに、現在の青ヶ島村の情勢などについてお聞かせください。

 

佐々木村長

青ヶ島は、島の半分以上が二重式のカルデラで形成されており、世界的にも稀な地形をしています。絶海の孤島で、夜には満天の星空が、冬にはクジラが見られることから、最近は観光客が増えています。特産品として、島で生産されたサツマイモを原料とした「青酎(あおちゅう)」や地熱を利用して製造する「ひんぎゃの塩」などがあります。

島への交通手段は、ヘリコミューターと八丈島との連絡船がありますが、港湾や道路などのインフラ整備は村の基本的課題です。加えて、人口の減少に対処するため、若い島民や島外からの移住・定住者向けの村営住宅の整備を行っています。

将来的に定住人口を300名にするのが、私が掲げる「ユートピア丸・青ヶ島」の基本構想です。そのためには、インフラ整備と島へのアクセス改善が不可欠です。

※ ひんぎゃ:地表から蒸気の出る噴気孔

佐々木村長へのインタビュー

内田常務理事

青ヶ島村の農業の特徴はどのようなことでしょうか。

佐々木村長

村の農業で一番生産が多い作物はサツマイモで、これは「青酎」の原料となるものです。

次がフェニックス・ロベレニーやキキョウランなどの切葉で、最近はレモンも栽培されています。農業のほとんどは外輪山の内側で行われており、暖かで風も少なく、オオタニワタリなどの植物が自生していて観葉植物の栽培にはとても適した環境です。

また、畜産では黒毛和牛の子牛の生産が行われており、現在、5戸の農家で親牛を飼育しています。生まれた子牛は島で8か月飼育されたあと、都内の肥育農家に引き継がれ、東京産の黒毛和牛「東京ビーフ」として出荷されます。夏には伝統の「牛祭り」が開催され、島の人たちが楽しみにしているイベントになっています。

フェニックス・ロベレニーの切葉生産

牧場の黒毛和牛

内田常務理事

「青酎」は青ヶ島の代表的特産品ですが、どのように生産されているのでしょうか。

佐々木村長

農家が秋に収穫したサツマイモは、すぐに焼酎工場に運ばれ、生産者ごとに分けられた醸造タンクに仕込まれ、1月ごろには焼酎ができあがります。

現在8名の生産者が、自然の麹菌と蔵付き酵母を使って製造していますが、それぞれの焼酎の味わいに個性が出るのが「青酎」の特徴です。また、製造過程の最初にできるアルコール度数60度の原酒「初垂れ(はなたれ)」は、特区の認定を受け島内のみで楽しめる「幻の焼酎」として人気です。

焼酎工場の蒸留施設

製造工程の説明を受け、各生産者の青酎を試飲させていただいた

内田常務理事

観葉植物では施設栽培が多く、農業用水の需要も大きいと思いますが、農業生産基盤の整備状況はいかがでしょうか。

佐々木村長

観葉植物のハウス栽培をはじめ、サツマイモの苗生産、切葉の出荷調整など、水は農業のあらゆる場面で必要です。島には河川がなく地下水も乏しいため、農業用水は道路や山の斜面からの表流水を貯水池に溜めて使用しています。こうした農業水利施設は、整備後30年近くが経過し老朽化してきたため、貯水施設やパイプラインなどの改修工事を計画的に進めています。

また、農業基盤施設などの管理を効率的に行うため、村ではいち早く地理情報システムを導入し、パソコン等の画面で地図上に様々な施設情報が表示できるようにしています。

道路や山の斜面からの表流水を溜める貯水池

貯水池から貯水槽にポンプアップして農地に配水

内田常務理事

水の確保にはご苦労されているのですね。

村の農業の課題はどのようなことでしょうか。

佐々木村長

何と言いましても、農業に限らず島の産業を支える担い手の高齢化や減少への対応が一番の課題です。

流通面では、観葉植物などは連絡船で八丈島まで運び、そこから大型船で東京へと出荷することになりますので、安定的な船の就航が重要です。特に冬場は船の就航率が悪くなりますので、この時期の生鮮野菜も島内で生産していく必要があります。

また、青酎や観葉植物などの特産品については、販売拡大に向けたさらなるPRが必要です。

内田常務理事

冬場の自給野菜の確保は青ヶ島ならではの課題ですね。

最後に、今後の農業の方向についてお聞かせください。

佐々木村長

農業振興については、農業水利施設や農道、地理情報システムの整備のほか、安定生産のためのパイプハウスの導入、高収益をめざした6次産業化を進めていきます。

また、他産業も含め、島外からの人材の確保を進めるため、住宅など生活面の支援もしていきます。

さらに、最近は、島内でもYouTubeやSNSで情報発信が活発になっており、様々な方法で青ヶ島の魅力を積極的に発信することで、特産品の販売を拡大したり、観光で来島されるお客様を増やしていきたいと思っております。青ヶ島をもっと知っていただき、こうした方々の中から島への移住者が増えることを願っております。

内田常務理事

離島ならではの農業の様子やご苦労がよく分かりました。

今日はお忙しい中、ありがとうございました。

※2025年6月30日に青ヶ島村役場会議室でインタビュー、聞き手は水土里ネット東京 内田常務理事